不意に、聞き慣れた名前が耳を掠めた。
「瀬伊様の声って、本当に魅力的ですわね〜」
「そうですわねー。少し高めで甘くて、一言囁かれるだけで逆らえない力があるというか」
「さすが祥慶学園の妖精でいらっしゃるわよね」
ここ祥慶学園で、誰もが注目するラ・プリンス。その一人である彼は、そのきれいな容姿も声も、繊細なピアノも、そのどれもが女の子達にとても人気
があって、どこへ行っても彼の話は出てくる。あたしが困るくらいに。
「あの声で、耳元で囁かれたらどうなるかしら」
「きゃあっ、はしたない。そんなこと想像もできませんわ」
「あ〜、もしそんなことがあったら、京香、きっと倒れてしまいますわー」
ルーフガーデンでさんざめく女生徒達の声が、風に乗ってここまで届く。彼女たちのおしゃべりは、とどまることを知らない。
「知ってるよ、そんなこと」
足を止めて、思わず呟いていた。誰もここにはいないのに。
でも、知ってるの。
囁かれたら、どうなるかなんて。
そう、彼の声には力がある。
優しげで甘くて、どこか儚くも聞こえるのに、実はとても意地悪なことも。
その囁きを耳元で聴かされたら、何も抗えなくなることも。
そして、一番力を発揮するのは、夜だということも。
「ねえ、むぎ」
ほら、後ろから伸ばされた腕と声が、今夜もあたしをとらえる。
それは、あたしだけが知っている Secret voice。