Eat me.

「瀬伊くん、瀬伊くん」
 むぎの呼ぶ声に僕は振り返った。
「『あたしを食べて』って書いてある、いかにも怪しげなお菓子があったらどうする?」
と無邪気な顔で聞いてくる。相変わらず急に突拍子もないことを言い出すところが、彼女らしい。
 ふと彼女の手元の本を見て、納得した。そうか。『不思議の国のアリス』って、そんなお菓子が出てきたっけ。
「もちろん食べるに決まってるよ」
「えーっ、いかにも怪しそうなんだよ。その前に体が大きくなったり小さくなったりしてても?」
 むぎはいかにも不満げだ。でも僕の答えは変わらない。
「当然。だって君と一緒だからね?」
「へ? どういうこと?」
「君を食べるとき。僕を大きくするのも、小さくするのも、君次第ってこと」
 耳元で囁いた言葉に、彼女の顔が真っ赤に染まった。
「むーぎ。 どうかしたの?」
「な、何でもないよ!」
 焦って答える声が、少しひっくり返っている。何を想像したんだかと思わず吹き出しそうになった。
「そうかなあ。いつもの君と違うから、僕、心配だよ」
 笑いたくなる気持ちを隠して、少し首を傾げて彼女の顔を見上げてみる。大抵の女の子には、『儚げな』『憂い顔』と映るこの表情。僕のことをもう十分に分 かっている君でも、この目には弱いよね。
「あ、え、その」
 しどろもどろになる君を見てると、僕の中に君への気持ちがあふれだして、いつもぎゅっと抱きしめたくなる。

 ホントなんだよ。
 僕を大きくするのも小さくするのも君次第。
 君が僕を見ていてくれるだけで、どんなことが起こっても、怖いことなんて一つもないくらい、大きく強くなれるんだし。
 君がいなくなったらと思うだけで、僕なんて消えてなくなってしまいそうに小さくなってしまうんだから。

「むぎ。僕を食べて?」
「な、何言うの!」
 腕の中でもがく君を、強く抱きしめる。
 君はいつも明るくて強いけど、一人で泣いてた夜があることも知ってる。
 そんな君の、強さの元になれるなら。
 どんなときも無理をしないで、心から笑う君でいてほしい。だから。

 Eat me. ( 僕を、食べて)
 それが、僕の願い。






あとがき
 07年瀬伊誕生日企画第二弾。『S・E・I』のEで、「eat me」です。瀬伊が支配されるのは音楽とむぎくらいだよな〜と考えていたら、こんな話が浮かんできました。
 タイトルからぽんと浮かんだこのSS、最初はとても短かったです。実は「君次第ってこと」の次の言葉で終わりでした。なんか、妄想が刺激される終わり方 でいいな〜って。(笑)
 あまりに短かったため、書き足したのですが、アップする直前までそこで止めた方がいいか悩んでました…。みなさんは、どちらがお好みですか?

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