ハッピー・ハロウィン!(木ノ瀬梓)

「梓君、トリック・オア・トリート!」

 弓道部の後輩に、にこにこしながら手を差し出しすと、きょとんと目を丸く見開いた梓君は、一拍おいて「ああ」と手を打った。
「そういえば、今日はハロウィンなんですね」
「うん。梓君は知らなかった?」
「そういうイベントがあるのは知っていましたけど、あまり自分でどうこうしようと思ったことはなかったですねー。クラスメイトがお菓子お菓子と言っていた のは覚えてますが」
「お菓子だけなの?」
「まあ、腹が減った野郎なんて、それ以外はどうでもいいですからね」
 どうせなら、悪戯もした方が面白いのにとけらけらと笑う。その言葉に私は自分がやろうとしていたことを思い出した。
「そうだよ。だから、トリック・オア・トリート!」
 もう一度手を出すと、梓君はにっこり笑って言った。
「すみません、先輩。僕、お菓子持っていません」
「そうなの? それじゃあ、悪戯しちゃおうかな?」

「いいですよ」

 即答されて、面食らった。
「え、だって悪戯だよ。いいの?」
「ええ。先輩からどんな悪戯されても、僕がしっかり受け止めます。そのぐらいで動揺するほど、器は小さくないつもりですし」
 梓君は両腕を広げた。
「さあ先輩、どんな悪戯、してくれます?」
「え?」
 そのまま一歩近づいてくる。思わず私は一歩下がった。
「ねえ、先輩? どんな悪戯ですか」
 上目遣いにのぞき込むようにしながら、梓君がまた一歩近づいてくる。
 その極上の笑顔で迫られたら、もう負けを認めるしかない。
「…うう、降参です……」
「そうですか。残念です」
 ちっとも残念そうな様子もなく、梓君が言う。
「じゃあ、代わりに僕が悪戯してあげますね」
「どうしてそうなるの!?」
「僕がしたいからです。ダメですか」
「ダメー!」
 言われた言葉に赤くなったり青くなったり。ジェットコースターに乗っているみたいだけど、楽しそうに笑う梓君を見ていると、こっちまで楽しくなってく る から。

「先輩、一緒に帰りましょう」
「うん!」
 差し出された手を握って、二人で笑った。








あとがき
 愛が高じて、突発的に書いてしまった初書きスタスカSSです。時期を完全に外したハロウィンもの。ネタが一番に浮かんだのが、梓でした。強気な射手座っ 子には、ぜひこのくらい言って欲しいですv 
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