迷って、否定して、でもどうしても止められなくて買った物。
このストラップは、天地の今の気持ちそのものだ。
どこかのんきでとぼけている芙由は、一学年上だ。
彼女は、去年修学旅行へ行ってきた。学年が違う自分
は、一緒
に
行くことができなかった。それが悔しくて悔しくて、学校に残っている間も気が気でなかったというのに、芙由は、自分にお土産一つ買ってきてくれなかったの
だ。
あの時の気持ちは、よーく覚えている。
自分がぎりぎりと歯がみしたい気持ちで待っていたというのに、「楽しかったよ」と、ごく普通にお土産話をしてくれ
る
だけ
で終わってしまった、あの帰り道。
これじゃただの後輩じゃないか。
自分がものすごく期待していたのだということに、芙由を見送った後で気が付いた。普段、
形に
残るプレゼントをもらわないことを信条としている自分が、一年経っても、そのときのことをこんなにはっきり覚えているくらいに。
「ねえ、翔太くん。お土産、一緒に選ぼうよ〜」
「あ、うん。いいよ」
だから、クラスの女子数人に誘われて、何となく土産物屋へ行ったときも、お土産を買っていくつもりはなかったのだ。一緒に行けなかった去年のことを思い
出
す
のも嫌だったし、子どもっぽいと思っても、先輩だってお土産をくれなかったんだから、自分だけ買っていくのも癪だった。
なのに、店内の商品を見ていると、
すぐに先輩ならどれが好きかと考えている自分に気づく。慌てて違う商品に目を向けても、心は芙由を追いかけている。
「あ、ストラップ……」
ふと、ずらりとぶら下がったストラップに目が留まった。いかにも京都らしいデザインが多く、値段も手頃なので、大勢の羽学生が一生懸命に選んでいる。
ふ
と奥
の方に目をやると、棚の端にちょっと変わった色のストラップが見えた。よく見てみると、かき氷の宇治金時だ。さすが京都だよなあと、天地はヘンに感心し
た。
ちょっと見ないデザインだし、こういうのなら、先輩も好きそうかも……。
「天地くん。それ買うの?」
突然天地の手元をのぞき込んできたのは、クラスでもかなり積極的で目立つ女子だった。だったらお揃いで買っちゃおうと言って、友達ときゃあっと笑い崩れ
ている彼女に、
「僕は買わないよ。お土産はお菓子って決めているからね」
にっこりと微笑んでそう言うと、みんなすぐ納得して、天地オススメのお菓子を探し始めた。
帰るときには、天地の手元に2つのかき氷ストラップがあった。みんなの目を盗んで、こっそりと買っておいたのだ。
「渡すつもりもないんだけど……」
自分の行動にため息が出る。買うまいとあれほど強く思っていたのに、気づいたらふらふらと買っていた。全く負けっぱなしだ。芙由だって、仲のいい後輩か
らお土産がもらえれば喜ぶだろうけど、きっと彼女はお土産なんか、期待なんてしていないに違いない。
「いいけどね、別に。……あーあ。先輩が一緒に行きたがってくれたら、あげよっかなあ……」
自分でも、その言葉はいかにも言い訳めいて聞こえた。
そんな経緯のあったストラップだ。自分の携帯にはすぐ付けた。今日まで何度となく渡そうとポケットや鞄に忍ばせてきては、いつも渡しそびれてきた
ため、もう包みの端っこが折れてきている。これはチャンスだ。そう言い聞かせて、天地が口をはさもうとしたそのとき。
「あのお土産物屋さんで買ったんだよね。あそこ、いろんなストラップおいてあったから。私の修学旅行の時も、すっごい迷いながら選んでたんだよ」
……私の時も選んでいた? それは、誰と?
彼女の言葉が、思いがけないほど深く、天地の心に突き刺さった。僕がこれほど悩んできたのに、先輩はもう誰かのものなの?
「……先輩」
思わず声を出したが、その後の言葉が出てこなかった。一言でも発したら、芙由をめちゃくちゃに責めそうだ。そう思ったとき、
「……私もさ、修学旅行に行って一緒に選べたらよかったのにって」
どこか寂しそうに、泣き出しそうな顔で笑う芙由の言葉が届いた。肩が小さく震えている。
天地は足を踏み出して、芙由にそっと手を伸ばした。こっ
ち
を見てなくてよかった。先輩には悪いけど、嬉しくて笑い出す口元が押さえられない。
先輩、僕と同じ気持ちでいてくれるって、そう思ってもいいかな。
あふれ出す想いとともに、天地は芙由に紙包みを手渡した。
「ね、先輩。今度行こうよ、修学旅行」
少しでも脈があるのか試したい。先輩、どう答えてくれるだろう。不安と期待を込めて、天地は芙由に訊いてみた。
「……一緒にってこと?」
神妙な顔で、芙由が聞く。まっすぐ芙由を見て、天地は頷いた。
先輩、うんと言って……!
「うん、いいよ」
答えは、ヤケにあっさり返ってきた。
「……先輩、意味分かってる?」
心配になって、思わず聞いてしまった。とたんに芙由がむくれる。
「分かってるよ? 一緒に回ろうってことでしょ?」
「そうだけどさあ……」
分かってない。ぜーったいに分かってない。修学旅行と同じあのコースをまわろうと思うなら、日帰りじゃ帰ってこれないってこと。一泊どころか、二泊以上
か
け
るつもりなんだけど。
「……あ、あははははっ!」
となりで芙由がきょとんとしているけど、かまわず天地は笑った。
いいや。欲しかったは、未来の約束。
一番欲しいものが手に入ったのだから、今はこれで満足しなくちゃだね。今の僕と先輩の距離には、これくらいが丁度いいのかも。
いつか一緒に行けたら、あのお土産物屋に寄ろう。今度は二人で選ぼう。
そう言ったら、先輩は笑ってうなずいてくれるかな。
夕焼けに照らされて、全てが茜色に染まる。ストラップを大事に握りしめた芙由に、天地はそっと手を差し出した。