その手をのばして

「……子ども扱い、しないでよ」
「ご、ごめん……」
 すまなそうな顔で、先輩はのばした手を引っ込めた。かなり声が冷たかったかもしれない。しゅんとしょげている先輩を見て、ちくりと胸が痛んだ。

 鷹野先輩から誘われて、森林公園で久しぶりのデート。
 ちょっとおしゃれした先輩と二人、落ち葉が舞い散る道を、楽しく話しながら散歩して。なんだ かいい雰囲気になってきたときに、先輩が僕に手をのばしてきた。
 僕の手に、少し冷たい手が触れたときはドキリとして、顔が熱くなったのが自分でも分かった。でも、思わず手を引っ込めてしまった。
 口から出たのは、僕自 身も驚くような冷たい言葉。
 手をのばしてくれるのは嬉しかった、本当に。だけど、こんなふうに年下だからって、子どもみたいに触れられるなんて、ごめんだ。
 ……ううん、違う。先輩が、そんなこと考えてるわけじゃないってことは、分かってる。あんなにぽやんとしている人だから、たいした意味もなく、ただ手を の ば してきただけだって。
 でも、嫌だった。

 ……何が?
 不意に、頭に浮かんだ疑問。
 何が嫌だったのだろう。
 僕も、何となく触れたいと思ってた。いつ手をのばそうかと迷ってた。だから、丁度いいチャンスだったはずなのに、口から出たの は、 思ってることとまるで反対のキツイ言葉。
 僕は、隣を少し遅れて歩く先輩を、ちらりと振り返った。歩くのに合わせて、柔らかなグレーのスカートが揺れる。先輩は辺りを見回していて、さっきまでの こ とは まるでなかったように、鮮やかに色づいた木々に目を奪われている。

 先輩は先輩で、年上で。
 そんな言葉が頭をグルグルする。女の人を相手にしていて、年なんて気にしたことはなかった。年下だと上手く甘えられるか ら、返ってラッキーだと思ってたくらいだ。なのに、いつもは気にしたことなんてなかったことが、最近ヤケに気にかかる。
 僕がもう一年先に生まれていたら、 同じ年 だったら。

 ……そうしたら、もっと自然に手をつなげた?

 すとんと胸の中に落ちてきた言葉。……そっか、そうだったんだ。
 たいした意味もなく、のばされた手。一番嫌だったのはこの事実。本当は、恋人同士みたいに、もっとちゃんと手をつなぎたいんだって。
 今頃、自分の気持ちに気づく。ううん、認めたくなかっただけで、本当はとうに気づいてた。胸の中が苦しくて、でも温かくなるこの気持ちを。

 ボクハ、センパイガスキ。

 もう認めないわけにはいかないよ。
 先輩は、おとぼけさんでおまぬけさんなんだから、僕がリードしなくちゃ進まない。たいした意味がなくても、差し 出された手は大切なチャンスだから――。

 と、そこまで思って青くなった。その先輩の手を、ついさっき、僕は振り払ったわけで――。
そうじゃん! 僕ってば、先輩から手をのばしてくれたというせっかくのチャンスを、棒に振ったってこと!?

 さっきの自分の行動を取り消したい気持ちいっぱいで、僕は先輩を見た。
「鷹野先輩。……あのさ」
「翔太くん、見て! あんなところに鳥がいる」
 手をのばそうとした僕の気をくじく絶妙なタイミングで、先輩が声を上げた。でも楽しげに笑う顔を見ていたら、僕もつられて笑ってしまって。

 もう一度手をのばしてくれたら、次は、絶対放さないから。
 だから、どうか懲りないで。その手をのばして。ね、先輩――。







あとがき
 ゲームのアプローチシステムより。ときめき状態でのこれは、さんざん見てニヤけていたのですが、志波攻略中に、友好状態の彼にアプローチしてみたら、も う……!!普通状態の反応より冷たいけど、主人公を意識しているからこそ、こんな反応なんですよーvv 天地はこの直後から、好き状態に変化している はずです。(笑)
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