「やっぱり『ひめはじめ』って今日だね」
依織くんの動きが不自然に止まった。しばらく固まっていた依織くんは、顔を上げてにっこり微笑んだ。
「その言葉、誰に教えてもらったんだい?」
「あ、瀬伊くんに教えてもらったんだけど……」
確か年の暮れに瀬伊くんと、お正月は依織くんの家に招待されていることを話していたら、
「そうかー。その日が『ひめはじめ』だね。むぎちゃん、松川さんにお姫様みたいに飾ってもらうんだもんね」
って教えてくれたんだよね。妙に楽しそうなのは気になったけど、その後着物を着るのかとか初詣はどうするかなんて話していたから、聞けなかったし。
答えながら彼の方を見ると、依織くんから笑顔が消えて、あたしの顔を射るように見つめている。あたし、また瀬伊くんに騙されて馬鹿なこと言っ
ちゃったのかな。
「依織くん、あたしまちがってた? 『ひめはじめ』今日じゃない?」
不安になって聞いてみると、依織くんはふと表情を和らげて
「いや。まちがっていないよ」
あたしの指を取ると、一つキスを落とした。思わず目が離せなくなるような艶やかな微笑みを浮かべて。
「でも、それは夜にしようか。まだ出かけなくては行けないし。せっかくの『ひめはじめ』なんだからね」
その瞳の奥に隠しきれない熱を感じて、首を傾げる。そんなにすごいことなのかな。これだけでも十分お姫様みたいなのに。
あたしのそんな気持ちを知ってか知らずか
「きれいだよ、むぎ」
熱い囁きが耳をくすぐる。それだけで、あたしはもうこのことを考えることができなくなってしまった。
ひめはじめの意味を依織くんにたっぷり時間を掛けて教えてもらうことになったのは、その夜のこと。瀬伊くんのばかーっ。