「なんだ、これは」
床いっぱいの紙に書き散らしてある横棒。その真ん中で嬉しそうに笑いながら、こむぎが顔を上げた。
「あ、かずやおにいちゃん。ね、むぎ、すごい?」
「え、あ……何がだ」
「これ。いっぱいかいたでしょ。むぎ、じょうず?」
「これがか?ああ、上手に棒を書いたな」
「おにいちゃん、わからない?」
見る見るうちに、こむぎの目に涙が溜まる。
「え、あ、すまない。……その、何を書いたか教えてくれるか」
こむぎの涙に慌てた一哉は、目の前にしゃがんで、できる限り優しく頼んでみた。
こむぎはしばらく口を閉じていたが、再度お願いをしてきた一哉の声に少し
顔を上げて言った。
「……かずやおにいちゃんのなまえ」
「え?」
「これ、なまえじゃない?」
なるほど、横棒じゃなくて一哉の『一』か。
「ああ、そうだ。……上手だな、むぎ」
「ほんとう?むぎ、かずやおにいちゃんのなまえ、はやくおぼえたかったの」
「なぜだ?」
「おにいちゃんいなくなったとき、なまえかけたらだれかにきけるでしょ?」
にっこり笑うこむぎに、一哉は思わず手を伸ばしてその柔らかい頬を撫でた。
「むぎ、おれはいなくなったりしない。だから俺に会いたくなったら、すぐに呼べ。いつでも行ってやるから。」
「……うん!」
雲間からのぞく太陽のように、こむぎの顔が輝く。
いつだってとびきりの笑顔で、俺のところに来いよ。
あとがき
初めてのこむぎ話です。(世間様より何テンポか遅れているところが、うちのサイトらしいところ)一つ目は一哉。子どもの扱いがよく分からない一哉は、こ
むぎ相手だと途方に暮れていそうです。逆にヘンな子ども扱いもしないんだろうなあ。不器用一哉好きーv