カーテン

 依織はふと、先ほどまで遊んでいたダイニングにこむぎの姿が見えないことに気づいた。
「こむぎちゃん? どこにいるんだい?」
 洗面所、キッチンと探していくと
「ここだよ、いおりおにいちゃん」
という声がした。どうやらリビングにいるらしい。
 声のする方へ歩いていくと、リビングの窓の隅で、こむぎがレースのカーテンにぐるぐるくるまってた。
「ここにいたんだね。何をしているんだい?」
 少し面食らったものの、優しく聞いてみると、
「えへへ。むぎ、おひめさま」
とはにかんだ笑顔が返ってきた。

 ああ、そうか。白いレースのカーテン。
 まだむぎがいた頃に定期的に洗濯されていたカーテンは、真っ白な薔薇の透かし模様で手触りも柔らかい。小さな女の子には、憧れかもしれない。依織は口元 をほころばせて、こむぎを見た。こむぎは、夢見るようにレースをそっと撫でたり小さく踊ってみたりと、夢中になって遊んでいる。
「ところで、こむぎちゃん。王子さまはどこにいるんだい?」
「ん? なあに、おにいちゃん」
「王子さまがいないなあと思って。こむぎちゃんがお姫様なら、王子さまがいないと困るんじゃないかい?」
「あ、ほんとだ。どうしよう……」
 とたんに、こむぎがうつむいてしまった。そのしょげた様子も愛らしくて。
「僕がやってあげようか?」
「ホント!? おにいちゃん、むぎのおうじさまになってくれるの? むぎ、うれしい」
 こむぎの顔がぱっと輝く。
「うん。こむぎちゃんの横で、ちゃんと王子さまみたいにしてあげるよ。ね? お姫様」
 片目を閉じた依織は、こむぎの前で片膝をつくと手を差し出した。こむぎはそんな依織を見ると、にっこり笑って
「えほんのおひめさまとおんなじ」
と、ぐるぐる巻きのカーテンの中から手を差し出して依織の手に載せ、ちょこんとお辞儀をした。そのちょっと気取ったおしゃまな姿に、依織の笑みが深 くなる。

 望んでいるよ。いつかレースに包まれた美しい君の隣に立つことを。




あとがき
 こむぎ話三つ目は、依織です。お姫様といったら依織。(またかい!)お姫様気分でレースのカーテンぐるぐる巻きって、小さい頃みんなやってるよね!?  レースのカーテンって、お嫁さんのヴェールにもなる便利ものだし。ただ、松川の家は、結婚式の衣装って絶対和装でやるような気が……。でも依織なら、 「僕も 見たいな」と言ってドレスも着せてくれそうです。
 このネタは瀬伊にしようかと思ったけど(低パラED思い出した)、あえて依織にしました。
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