「さあ、飾ろうか」
「うん。おにいちゃんたち、すごいねー。おっきなたなばたさまだね―」
ぎっしり飾りを付けられた笹を見ながら、しきりと感心しているこむぎを抱き上げて、短冊をつけさせる。ようやくつけ終わったこむぎは、依織を見て言っ
た。
「ねえ、いおりおにいちゃん。これでおねがい、かなうんだよね」
「そうだね。天の織り姫と彦星に願いが届くと叶うんだろうね。こむぎちゃんは、何をお願いしたんだい?」
「えへへ。おかあさんとー、おとうさんとー、なえちゃんとおにいちゃんたちと、みーんなであそべますようにって」
ふと、胸を突かれた。そんな未来は、彼女にはない。
この先の未来で彼女を待っている運命を思い、依織は思わず視線を落とした。
「おにいちゃん?」
あどけない顔が、依織の顔をのぞき込む。
「あ、ああ。……そうだね。たくさん遊ぼう。みんな一緒に」
叶うはずのない約束。それでも今こむぎの顔を曇らせたくなかった。
一度固く目を閉じてから、依織はきれいな微笑みを浮かべた。
「おりひめとひこぼしは、どこにいるの?」
こむぎが歌うように尋ねてくる。
「いつもは天の川っていう大きな川で、二人は離されているんだよ。年に一回、今夜だけが会える日なんだ」
こむぎは目を丸く見開いた。
「どうして? どうしていっしょじゃないの?」
「うーん、ふたりで遊んでばかりいたから、神様に怒られたんだって」
「なかよしなのに、あそんじゃいけないの? かみさま、おこっちゃうの?」
抱き上げられたまま足をバタバタさせて抗議するこむぎに、依織は苦笑した。
「大丈夫。ちゃーんとお手伝いする子は、神様も大事にしてくれるからね」
「わかった。おてつだい、ちゃんとする」
生真面目に頷くこむぎに将来の家政婦らしさを見つけた気がして、依織は柔らかく笑いながら、その温かい体をぎゅっと抱きしめた。
七夕の夜の願い事。全てではないけれど、叶えてあげよう。
大きくなった君とお姉さんと僕たちが会える、そんな奇跡の日を。