出かける支度をするからと、慌てて二階へ行った彼女の足音が、部屋の前で止まった。ドアの音はするのに、他の音は聞こえない。全ての音が音楽とし て聞 こえる僕には、君の足音はすぐ分かる。僕の耳はごまかせないよ。
ふうん、部屋に行ったと見せかけて、外へ先回りするつもりだね。
僕は、リビングにあった大きめのメモ用紙に、サインペンを走らせた。リビングから出て、羽倉が部屋から出てきたところへ、階段上からメモを見せ
る。
『部屋のすみの箱を見てみなよ。静かにしないと起きちゃうからね。』
顔色を変えた羽倉は、それでもいつもより静かに部屋へ戻っていって。僕はその音に紛れて外へ出た。
君はどんな顔でここに来るのかな。
待ち遠しくて仕方がない。
きっと自分の悪戯が失敗したことに気づいて、赤くなったり青くなったりするんだ。くるくる忙しく変わる表情が思い浮かんで、僕は思わず笑ってしま
う。
その後は、二人で青空の下をデートしよう。いつもなら恥ずかしがって一緒に歩いてくれない場所でも、ぴったりくっついて、みんなに、僕の彼女だって見せ
つけ
ちゃおう。君はもてるんだから、ちゃんと虫除けしておかなくちゃね。
キイッ……。
ドアノブが静かに回った。
早く出てきなよ。ぎゅっと抱きしめたいんだから。