「あ、ほら。除夜の鐘鳴り出したよ」
窓の外から、少しくぐもったゴオーンという音が響いてくる。ということは、あと五分ぐらいかな。
「除夜の鐘って、確か百八回、鳴らすんだよね。なんでだっけ」
鐘の音を聞いていたむぎが、無邪気に聞いてくる。
「煩悩を取り去るためっていうけど、やらなくていいのに。余計なお世話だね」
「なんでよ」
「煩悩取っちゃったら、楽しくないじゃない。それがあるからいいことって、いっぱいあるのに」
わざと曖昧な言葉で答えると、案の定むぎが訊ねてきた。
「それって、どんなこと?」
ほら、引っかかった。君なら絶対言うって思ってたんだ。僕は会心の笑みを浮かべる。そろそろかなと、心の中でカウントダウン。
「それはね……、こんなことだよ」
すっとむぎの頭を引き寄せてキスをした。ソファーに細い体を押しつけて、やんわりと動きを押さえるのも忘れない。唇を味わい、角度を変えながら更に深く
口づけると、君の体から力が抜けていくのが分かる。テレビから「新年おめでとう」なんて声が聞こえてきた。
これが僕のしたかったこと。二人の大事なコミュニケーションを、煩悩なんてとんでもない。
一年の終わりをキスで終えて、新しい年をキスで迎える。
キスで終わり、キスで始まる一年。僕たちにぴったりじゃない?
これからの一年一年も、ずっとこうしてキスで終わり、キスで始められますように。
これが、僕から神様への願い。
A HAPPY NEW YEAR!