A HAPPY NEW YEAR!

「もうすぐ新年だね」
 にこにこして、むぎが言う。
「大晦日はね、いつもこうして『白紅歌合戦』見て、そのあと『出る年くる年』見てたの。すると除夜の鐘が外から聞こえてくるんだよ」
「ふーん、ずっとみんな起きてるの?」
 僕はソファにもたれて聞いていた。空調のきいた部屋の中は気持ちのよい暖かさで、このところの冷え込みも気にならない。
「うん、大体ね。それで年越しの挨拶をしてから『おやすみ』って寝てたの」
「そう。僕はいつもとあんまり変わらなかったから。あまり気にしたことないかも」
「瀬伊くんらしいよねー、そういうとこ」
 確かにそうなんだけど、笑ってる彼女が少し憎らしい。今年はちゃんと起きてるだけでもすごいってこと、気づいてる?
 こんないかにも年越しらしいことする のは初めてだった。それにはちゃんと理由がある。

「あ、ほら。除夜の鐘鳴り出したよ」
 窓の外から、少しくぐもったゴオーンという音が響いてくる。ということは、あと五分ぐらいかな。
「除夜の鐘って、確か百八回、鳴らすんだよね。なんでだっけ」
 鐘の音を聞いていたむぎが、無邪気に聞いてくる。
「煩悩を取り去るためっていうけど、やらなくていいのに。余計なお世話だね」
「なんでよ」
「煩悩取っちゃったら、楽しくないじゃない。それがあるからいいことって、いっぱいあるのに」
 わざと曖昧な言葉で答えると、案の定むぎが訊ねてきた。
「それって、どんなこと?」
 ほら、引っかかった。君なら絶対言うって思ってたんだ。僕は会心の笑みを浮かべる。そろそろかなと、心の中でカウントダウン。
「それはね……、こんなことだよ」
 すっとむぎの頭を引き寄せてキスをした。ソファーに細い体を押しつけて、やんわりと動きを押さえるのも忘れない。唇を味わい、角度を変えながら更に深く 口づけると、君の体から力が抜けていくのが分かる。テレビから「新年おめでとう」なんて声が聞こえてきた。

 これが僕のしたかったこと。二人の大事なコミュニケーションを、煩悩なんてとんでもない。
 一年の終わりをキスで終えて、新しい年をキスで迎える。
 キスで終わり、キスで始まる一年。僕たちにぴったりじゃない?

 これからの一年一年も、ずっとこうしてキスで終わり、キスで始められますように。
 これが、僕から神様への願い。

 A HAPPY NEW YEAR!




あとがき
 お年賀企画と同じ時に考えた年末ネタ第二弾です。相変わらず甘いの大好き、くっつくの大好きな瀬伊です。サブタイトルは、『2年越しのキス』
 ちなみに『白紅歌合戦』『出る年くる年』、似た番組はあるけど気のせいということで。(笑)
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