その後慌ただしく仕事に向かった一哉が家に戻る頃は、少し雪が強くなっていた。
暗い夜道でヘッドライトに照らされた雪が白く光る。前の車のテールランプ
が
赤く光る以外余り変化のない風景にも心を動かされず、一哉は次の仕事に向けて頭を巡らせながら車に揺られていた。
家に着き、門をくぐる。少し歩くと玄関脇に妙なものが見えた。雪に埋もれかけているが、少し大きめの箱のようだ。何かの台に乗せられているその箱
の
上には、赤いリボンが輪になって付いている。中にある物が雪に埋もれないようにしているらしい。
とりあえずその輪を持ち、箱を上に持ち上げた。
「……ああ、これが」
現れた物を見て、思わず笑みがこぼれた。
中から現れたのは、お盆に載せられた二羽の雪うさぎ。
一羽は真っ白な雪に緑の細長い葉を刺してあり、目にはどこで見つけてきたのか南天の赤い実がちょこ
んと付いている。もう一羽はもう少し小さめの体に、赤く色づいた葉を耳にして、やはり南天の実を目にしている。単純な形だけど、どこから見てもかわいらし
い二羽のうさぎに見える。
「家には、この実が付いた木はなかったな。……どこで見つけてきたんだか」
口元がほころぶ。今日は昼からまた雪が降り始めていた。一哉が見たことがないと言ったため、何とか見せたいとあちこち探し回ったのだろう。うろうろ探
し回るむぎの姿が思い浮かんで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……全く。仕方のないヤツだ」
ネクタイを緩めながら、玄関を開けた。
「お帰りなさい、一哉くん」
むぎが笑顔で出迎える。一哉の上着を受け取りながら、嬉しそうに言った。
「ねえ、玄関に置いておいたの、見てくれた?」
「ああ。わざわざ作ったのか」
「そうだよ。せっかくだから、見てもらいたかったしね。どう? 目もしっかり南天の実を付けたし、今度こそちゃんとうさぎに見えるでしょ」
得意げなむぎの顔に、子どもみたいなヤツだとおかしくなる。
「あの南天の実、家にはなかったよな。探してきたのか?」
「うん。庭をぐるっと回ったけどなかったから、どっかにないかなって。公園にあるかと思ったのになくって、川の向こうまで行ってきたんだよ」
「あんなところまで行ったのか。雪が結構降っていただろう」
かなり離れたところまで行っていたことを知り、一哉の声が険しくなる。
「だって、一哉くんに見せたかったんだもん」
悪びれずにむぎが言う。
「お姉ちゃんに作ってもらったときにね。『これはなかよしでいられるためのおまじないなんだよ』って聞いたの。だから絶対に一哉くんに見せなきゃと思っ
。」
「ふうん、そうか」
嬉々として話すむぎを見て、一哉はふとむぎの頬に手を伸ばした。
「そこまでしてもらったんだから、もっとなかよくしなくちゃな」
にやりと笑って顔の輪郭に沿って手を滑らせると、真っ赤になったむぎが声を上げる。
「そ、そういう意味じゃないよ!」
「『おまじない』なんだろ。ちゃんと効いてるぜ」
こんな些細なこと一つで俺の心を温める彼女は、一瞬だって手放せない。
もっともっと近くにと願うばかりの自分に、一哉は思わず笑った。
家の外には、仲良く寄り添う二羽の雪うさぎ。